小説「政権奪取!」 17 最終章


こうして、政権奪取を掛けた壮絶を極める選挙戦が始まった。実際に選挙戦が始まると現政権の権力を使った嫌がらせも思ったほどなく、いつもと殆ど変らぬ選挙戦が展開されていった。そして何より、大きな変化を見せたのが選挙違反を取り締まる警察の対応である。警察もうすうす政権が交代するとみて、力をなくした現政権が警察を動かそうとしてもサボタージュで応戦し、選挙が終わるまでは公平公正無私として動かなかったのである。

 そして、室井と村木のコンビがゆく先の街頭演説会場は、何処も彼処も人だかりで溢れかえり、特に村木琢磨には握手を求めて女性達の長蛇の列ができていた。

 ここで、一つくらい危ない選挙区へテコ入れに二人が入った時の詳細を記さないと読者の皆さんに納得して頂けないと思われるので、大阪十七区、あの上村真一氏の選挙区の事を記す事にしよう。先の総選挙でトップと六万票差の大差をつけられ、選挙区の有権者の大多数に再起不能と思われていた上村真一が、比例近畿ブロック候補の村木琢磨の支援を受けるとたちどころにトップ当選予想が各社マスコミの下馬評で挙げられ、気の早い週刊誌では、既に当選確実圏内入りと報じられていた。

 それには、マスコミとしての読みも働き、仮に上村真一が小選挙区で敗れても、比例近畿ブロックに重複立候補しているので、間違いなく当選するものと読んでいたのである。そして、その根拠が村木琢磨の立候補によるものが大きかった。各マスコミは、彼の保守党が定員二十九名中、二十から二十五議席位は取ってしまうと踏んでいたのだ。これによって近畿ブロックで保守党立候補者の取り溢しはないと思われていた。

 選挙中盤の日曜日、室井良子、村木琢磨の二人が揃って衆議院選挙大阪十七区へ応援に入った。会場は堺市の市民会館大ホール。およそ五千人が入れる会場は、立ち見が出るほどの盛況で、室井良子と村木琢磨の人気が如何に凄いかを物語っていた。それを裏付けるかのように上村真一が言った。

「いやあ今日は私への応援の為、遠路遥々お越し頂きありがとうございます。正直言って、この会場が私の主催する集会で満杯になるのは、あの拉致被害者の会代表のYさんご夫妻をお招きして以来ですわ。お二人の人気は本当に凄い、敬服いたしますわ、本当に・・・」

(上村は、上村らしい表現で謝意を伝えた)

「そんな事ないですよ。上村候補の人徳のなせる技で、私如きのせいではありません。私でさえ、上村さんが日本の政治家で一番最初に正面から拉致の問題を国会で追及された方だと知っていますから・・・そう言った勇気ある行動が評価されたのだと思います。」

(村木は、精一杯の敬意を込めて言った)

「私も、そう思います。」

(室井が短く言った)

「それでは時間も有りませんので、続きは総決起集会が済んでからという事で・・・」

「わかりました。」

(二人揃って言った)

 こうして村上真一の総決起集会は大成功のうちに終わった。二人の労を労うべく上村は、行き付けの居酒屋で二人と杯を挙げた。その席上で村木は、かつて上村が言って話題になった尖閣諸島について尋ねた。

「上村さんがいかれた時は、尖閣諸島の島は今と違って誰でも自由に上陸できたのですか
?」

(村木はストレートな質問としてぶつけてみた)

「いや、そうではありません。あの時も今と同じように、民間人の上陸は国としては認めておらず、海上保安庁に制止されました。我々にはあそこに灯台を立てて、それを後に海上保安庁に引き継ぐつもりでいました。彼らもそれが事前に分かっていたので、隙をついて上陸されたという事にして、灯台を立てさせてくれたのです。後にそれを引き継ぐかたちで海図に灯台の存在を記し、日本の実効支配下にある事を国内外に示そうとしたと言うのが真実ですな。」

(上村は、それは自身の得意分野と言わんばかりに解説して見せた)

「そうだったの、あの灯台は、そんな意味合いがあったの・・・」

(室井がそうだったのかという感じで発言した)

「やっぱり、貴方の様な人が国会議員として国会に居ない事が間違っていますよ。」

(村木が力を込めて言った)

「そんなこと言われても、なんせ前回選挙は六万票もの大差で負けましたから如何ともできません。私の不徳の致す事です。」

(上村は素直に言った)

「でも、今回は大丈夫よ。私達がこうして応援に来たんですもの、必ず当選させて見せるわ。ねえ、村木君。」

(村木の顔を覗き込んで言った)

「そうですとも、上村さんは必ず当選します。我々が当選させます。」

(村木が力強く答えた)

こうして、上村真一に対する二人の応援が行われていたのである。

 こういった二人の八面六臂の活躍で、次々に当確圏内入りを果たして言った結果、既に投票日一週間前の各社の事前調査段階で保守党は、過半数を超える予想が出されていた。この結果政権奪取へのカウントダウンが始まった。政権交代まであと一週間余りを残していた。

 そして、ついに運命の日がやってきた。各投票所では、投票がはじまり、天候にも恵まれた事もあって、各マスコミが、室井党首・村木琢磨の二大看板で選挙戦を戦った、保守党が断然有利との予想を報道していた。

 投票は午後八時で締め切られ、その日の深夜十一時頃には大勢が判明する手筈になっていた。選挙戦に臨んだ室井良子、平岩俊介、佐野肇、村木琢磨を除いて、残りの大勲位、渡部会長、隅田、久保、平城が渡部の会長室に集まって開票速報をかたずをのんで見守っていた。すると公認された保守党候補者が、早い者では開票率僅かに数%にも拘らず当確が打たれ、深夜十時過ぎには過半数を超え政権奪取が成功した事が判明した。その瞬間、足の弱っていた大勲位までもが立ち上がり歓喜の声を挙げた。

「やりましたね、渡部会長!」

(隅田が目に涙をあふれさせていった)

「ばかもの、男のくせに泣く奴があるか!」

(怒りながら、泣きながら渡部が隅田に言った)

「これ程、満足した金の使い方はありませんでした。皆さんご苦労様でした。」

(スポンサーらしい一言を平城が言った)

「いや、本当に皆よくやった、ご苦労だった。」

(誰が言ったかはもうお分かりでしょう)

「あとは、組閣で抜かりなくやらないと・・・」

(いつも冷静沈着な、久保が言った)


 こうして、悪夢のような政権から、凛とした、かつての世界から尊敬の念を持たれた頃に拘りの強い保守党政権が誕生し、日本の憲政史上初の女性総理大臣、室井良子総理大臣が率いる内閣が誕生したのである。





政権奪取! 完






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