小説「政権奪取!」 15


あの渡部が言っていた爆弾が、炸裂した。

公示日当日、東京のマスコミ界はてんやわんやの大騒動になっていたのだ。

「社長、聞きましたか。あの村木琢磨が我々の保守党から立候補するとの件、マスコミ各社は例の総務省からの誓約書を無視して報道合戦に入りました。」

(凄く興奮した様子で橘が言ってきた)

「これだったのか?・・・渡部会長が意味ありげに言っていた爆弾の正体は。しかし、よくあの村木琢磨を出馬させられたよな・・」

(隅田は渡部会長から聞いた爆弾が村木琢磨の出馬だと確信していった)

「何ですか社長、その爆弾っていうのは?」

(橘が当然ともいえる質問をぶつけてきた)

「解散が決まった時、渡部会長から公示日目掛けて爆弾を仕掛けて置いたと言われて居たんだ。だからこれが爆弾だ、間違いない!」

「しかしよく村木琢磨が承知しましたよね、と言うより彼の所属事務所が・・・・」

「結局、所属事務所をも言う事をきかせる事ができる力を持ち合わせているという事だろ、あのボス達は・・・そしてこのプロジェクトには、本当に国家の命運が掛かっているという事で失敗が許されないという事さ。渡部さんが『命を掛けられるか?』と覚悟を質した意味も分かった気がする。」

(隅田は改めて彼らの底力に感心したと言わんばかりに言った)

「村木琢磨は比例近畿ブロックで比例候補として立候補表明しています。」

「当たり前だろ、比例近畿ブロックの定員は二十九名と一番の大票田だ。そこで彼が立候補する事でそのブロックの重複立候補者がより当選し易くなるし、他党には一番ダメージを与えられる。極めて巧妙な戦術さ。しかも彼は以前ドラマで小学校の先生を辞めて、父の地盤を継いで政治家になり、その後総理大臣役を演じていた筈だ。」

(隅田は自身の推理を得意げに話した)

「室井良子党首と村木琢磨が二人揃って、選挙応援に駆け付けてくれたら鬼に金棒!その候補者は当選確実ですね。」

(橘が言った)

「私はこれから渡部会長の所へ行ってくる。後のことは頼む。」

「はい、分かりました。後の事はお任せ下さい。」

「隅田君、室井女史には公示日初日と選挙最終日に選挙区に張り付く程度で、後は専ら村木琢磨とセットで危なそうな候補者のてこ入れに動いて貰おうと思っているんだ。公示日まで爆弾として仕込んでおいたんで、村木琢磨とのツーショットのポスターは使えなかったが、選挙事務所へ張り出す事はできるから、希望する候補者には早速撮影させている所だ。そこで君に手伝ってほしいのは、これは私が二人のてこ入れが必要だと思っている候補者の一覧なんだが、万全を期す為、君にも分析してほしいんだ。遠慮せずどんどん意見を言ってくれないか、頼む。」

(隅田はびっくりした。何時の間にと思うほど手際よく、選挙での戦略が進められていたのだ)

「わかりました、喜んでやらせて頂きます。それにしても会長、よくあの村木琢磨を担ぎ出せましたね。一体全体どんな手を使って引っ張り出したんですか?」

(隅田はこの機会を逃すまいとして、単刀直入に尋ねてみた)

「なーに、たいしたことではない。村木琢磨の所属事務所社長とは無二の親友で彼も現代令終会会員なのだ。それで最長で四年間早ければ二年くらいと思って、彼を私の所に出向させてくれと言って頼んだんだ。そしたら快く協力してくれたという事さ、唯それだけのことなんだ。」

(渡部は胸の痞えを吐き出すように言った)

「それより、これで政権奪取が見えてきたと思わんか。現政権の混乱ぶりには目を覆いたくなる始末だ。総理は半狂乱状態らしいし、公示日なのに応援日程さえキャンセルが続出しているらしいぞ。哀れなもんだ。」

(渡部会長は余裕で言った)

「あれっ、村木琢磨って二日前に終わった末永小百合主演のあのドラマで共演していましたよね。確か・・・そうだ、官房長官役だった。会長、最初からこの展開を仕組んでいたんですか?」

(隅田は呆れたように言った)

「今更何言ってんだ。すり込みの大切さをオバマ大統領の例を挙げて教えてくれたのは君じゃないか、君には感謝しているよ。それにここ最近は、総選挙の度に政治ショーとしてマスコミが利用されてきた。たまには我々自身が徹底的にマスコミを利用しても罰は当たるまい。」

(渡部は今までの怨念を込めて言った)

「でも会長が初めてやったんじゃないですか、超売れっ子タレントの政界への出向なんて神業。」

「それもこれも日本が潰れてしまう前に、選挙という手法で合法的に政権を奪い返すための苦肉の策だ。我々にも大いに責任があるのだが、そろそろポピュリズム政治から真剣に脱却しないと取り返しの付かない事になってしまう。」

(渡部は反省するかのように言った)

「そうですね。でも十二日後には我々の静かなるクーデターによって、希望が持てる政権が誕生しますよ、必ず・・・」

「済まんが隅田君、他になければ私はこれから新幹線で室井女史の選挙区へ行って第一声を聞いてこようと思って居るんだが、何なら君一緒に行かないか?」

(渡部は旅の道連れに来いという口調で言った)

「はい、喜んでお供致します。その前に社に電話を一本入れさせて下さい。」

(隅田は当然行きますという思いで言った)

「よかろう、現地で村木琢磨も合流する手筈になっている。さぞや中田真弓が慌てふためくぞ!今から楽しみだ。あの女には散々爺呼ばわりされたから、いい気味だ。」

(渡部の意外な一言だった)



to be continued...





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