小説「政権奪取!」 12

2011/10/14

小説「政権奪取!」

t f B! P L

  「第四章」 (綱領と政策)

 隅田は帰り掛けに伊達に会い、主演を末永小百合にしたい旨を伝えイメージ作りに一役買った。

「なるほど、末永小百合さんですか。それはいい。ご本人室井良子女史と年齢的にも雰囲気も重なりますね。これは面白いものが書けそうです。いやあ、いい仕事頂いたな。」

「そうか、そう言って貰えると私もうれしいよ。」

「ところで、頂ける時間は最大限一ヶ月でしたよね。早ければ早いほどいいという事ですか?」

「そうだ。可能な限り早ければ早いほど私は有難い。」

「わかりました。一日も早く書きあげて見せます。」

「宜しく頼む。」

 翌日、隅田は橘とのすり合わせで室井良子役が末永小百合で決りそうなことや取り敢えず十二回の連続テレビドラマ化の方針であることを告げた。

「そうですか、主演は末永小百合さんですか。案外二人の雰囲気は似ていますね。室井先生は講演会を聞きに行ったので何回かご本人に会っていますが、末永小百合さんは映画やテレビでしか見た事ないけど、確かに二人とも凛とした美しさをお持ちですね。それでいて心の強さも共通しているように思います。そう考えると末永さんは、はまり役ですね。」 

「平岩さんに言われた私もそう思ったんだが、主演が末永小百合ならあの煩そうな渡部会長も文句ないだろうし、誰も反対しないと思うんだ。」

「そうですね、確かに反対する人はいないと思います。社長、それより、より大勢の視聴者にそのドラマを見せる手段として、うちの系列テレビ局と渡部会長の所のテレビ局との共同制作として放映しては如何でしょう?それなら両方の視聴者に見て貰えますし、必要経費を二社で負担すれば経費削減もできます。それに共同制作とする事でキャスティングもし易くなります。」

「なるほど、それは妙案だ。明日にも渡部会長に話してみる。きっとその案採用してくれるぞ。

 こうして室井良子をイメージしたテレビ局二社が共同制作する連続ドラマは、一気に動き出していった。

 その頃、室井の理事室では平岩が加わって、新しく大同団結して立ち上げる新しい政党「保守党」の党綱領が三人の手で作られていた。

「第一条は自主憲法制定を目指すとして、その前段として憲法九条の改正を行い自衛隊を防衛軍に昇格させる、としたいのだけど。どうかしら、平岩さん?」

「それは私としては悲願ともいえる事だから大賛成です。しかし世間がどう反応するか?」

「大丈夫、女の私が党首なら今までのイメージとは違ってタカ派とマスコミも決め付けないでしょうし、領土問題で揺さぶられている今がチャンスよ。」

「確かに、タイミングとしてはうってつけだと思えますな。」

(調整役久保が言った)

「ねえ、保守党として、これだけははっきりと綱領に盛り込みたいんだけど、ここ最近の政治情勢の中で、改革と称して改悪された制度、政策は勇気を持って元に戻す、という内容を盛り込みたいの。例えば年功序列賃金体系の様な制度、それに研修医の制度等をイメージして下さればいいわ。」

「他党から出るであろう『時計の針を逆戻しするつもりか!』との批判を受けて立つ覚悟とのことですな。」

(平岩が清々しそうに言った)

「そうよ。元に戻した方が凛とした日本に戻れると確信する政策は、毅然として元に戻す。これが私の政治信条です。」

(室井はきっぱりと言い切った)

「まったく同感で異存ありません、国会議員としても賛同いたします。」

(平岩が頷きながら言った)

 久保は、未だ議員にもなっていない室井に既に総理大臣としての風格も威厳も備わっていると確信した。それに引き換え、昨今の・・・ガールズ、・・・・チルドレンと言われる女性議員達は、室井の爪の垢でも煎じて飲めばいいと内心思っていた。党首の人気に頼って当選を果たしたり、自身のタレントもどき人気に頼って当選し、政策などそっちのけの議員を苦々しく思っていた。それに引き換え、室井は当選する前にも拘らず最近の総理大臣以上の見識と理念を持ち合わせ、問題の本質に正面から立ち向かう姿勢に惚れ直していた。

「ところで、平岩さんは室井女史の立候補先はご存知ですか?」

「いえ、存じて居りませんが・・・」

「あら私、未だ言ってなかったかしら。中田真弓先生の選挙区よ。」

「えっ、中田真弓女史の選挙区?何故また・・・」

「あら、平岩先生の発言が一部影響しているのに、そんなに意外かしら。

(室井は思わせぶりに言った)

「私の発言が影響を与えた?」

「そう、貴方が会長をされてるあの議連。」

「わかった、彼女が民自党時代に外務大臣だった時のあの一件。」

「そう、私もあの時の外務大臣としての対応が未だに許せないの。だから小学校、中学、高校と暮らしたこともあるあの選挙区に立候補する事にしたの。応援演説に来てね。」

(室井は甘えるように言った。久保はそれが可笑しくてつい平岩の顔を覗き込んでしまった。平岩は苦笑いしていた。)

 こうして、室井、久保、平岩の三人によって、党綱領素案が五項目にまとめ上げられた。後日、あの御前会議に諮られるのである。

 その頃、取り敢えず五話までのシナリオが描き上がり、渡部の会長室で渡部、佐野、平岩、隅田のメンバーでその出来具合を審査していた。

「君の所と共同制作という形でドラマ化するのだな?」

「はい、そうです。そうする事で両方の視聴者に見て貰える為、確実にこのドラマを見る人は増えます。それが一つの狙いです。他に必要経費を二社で分担する事で、経済性が確保できます。そして、何よりキャスティングが容易になる事で共演者に豪華メンバーが投入でき、話題性も確保でき結果、視聴率が稼げます。」

「わかった、当面の資金三億円を用意するから、早速、スタッフ、監督、キャスティングの人選を進め、一日も早く撮影に入ってくれ。この件に関しては君が主導して全てやってくれていいから、時折このメンバーで状況確認をやっていく事にしようじゃないか。」

「はい、分かりました。早速あすから取り掛かります。」

 その二日後、このメンバーに大勲位と室井良子、久保貴平が加わって、三人が作った党綱領の最終チェックが行われた。あの第一条自主憲法制定、第二条財政危機対応、第三条教育再生、第四条エネルギー資源確保の為の戦略、第五条国民の道徳心、順法精神の再生をその基本とする簡潔で明瞭な党綱領が完成した。

 この席上で、久保の口から室井良子があの中田真弓の選挙区から立候補する事がメンバーに紹介された。事前に平岩から漏れていたたらしく、知らされていなかった大勲位以外は驚かなかった。


to be continued...



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