小説「政権奪取!」 10

2011/10/04

小説「政権奪取!」

t f B! P L

皆が心地よい気分のまま帰って行ったお座敷に、渡部と隅田の二人が残った。

「未だ、飲むかね?」

「いえ、もう十分頂きました。」

「そうか、もう要らないか。」

(渡部はそう言いながら自分の杯に酒を注いでおもむろに言った)

「前に君が言ったすり込みの件だが、日本でもできると思うか?」

「はあ、すり込みの件ですか?」

「そうだ、アメリカの憲政史上初の黒人大統領誕生の裏には、アメリカマスコミの巧妙なテレビドラマを使ったすり込みがあった様だと何時か君が言っていただろう、あの件だよ。

(そうか、俺この会でもパーマー大統領の件話していたんだ)

「はい、それは可能だと思います。」

「で、どうすればいいんだ。幾らくらいあればいいんだ?」

「それは単発ドラマとしてするか、連続ドラマで放映するかで天と地ほども違います。」

「どっちの方が効果的なんだ?」

「それは連続ドラマです。」

「50億から70億の間でできるか?」

「たぶん可能だと思います。」

「これは日本で初めての試みだ。総務大臣を現政権が押さえて居る以上、失敗は許されん。会社の存亡に関わる。君に一週間やるから綿密な計画を立ててくれ、頼む。」

「わかりました。やってみます。」

 隅田は武者ぶるいしていた。マスコミ人である自分が、政権奪取するかもしれないマスコミ戦略を一手に任されて、マスコミ人としては死んでもいいというほど昂っていた。主演女優は誰にしよう?連続ドラマだったら何回までの連続にしよう?共演者のキャストは誰がいいか?そんな構想とも妄想ともつかない思いで頭の中はテンパっていた。

(幾らまで掛けていいんだろう?とにかく先ずは橘に相談だ)





「本当ですか、社長!伊達公之にシナリオを書かせて、連続ドラマ化できるんですね。しかもあまりドラマ化されていない政治をテーマに、我々にとって夢みたいな話じゃないですか?本当にお金のことも心配しないでやらせて頂けるのですね?」

「くどいな君は、私を信じられないとでも言うつもりか?」

「いいえ社長。あまりに唐突で大きな使命とスケールのお話ですから・・・俄かには信じ難い気がして・・・つい疑い深くなってしまいました、お気を悪くされたなら謝ります、すいません。」

「無理ないさ、俺だって信じられない位だから・・・」

(橘は隅田のその言葉を素直に信じた。めったに使わない「俺」という言葉に明らかに隅田も動揺している事を悟っていた)

「もしも都合がつくなら、明日にもそのシナリオライターの伊達君に会いたいのだがセッティングしてくれるか?」

「わかりました、やってみます。でも社長、失敗させてしまったらただでは済みませんね。その時はどう責任を取ればいいのでしょう?」

「馬鹿もん!それは君が心配する事じゃないだろう。責任なら私が取る心配するな!」

(気迫の伝わる一喝に橘は、橘なりにベストを尽くすことを誓った)

 その夜、隅田、橘、伊達の三人は、向島料亭「華蝶」で初めての打ち合わせを行った。

今回も情報漏えいを考えて、芸者を呼ぶことは控えた。

「初めまして、しがないシナリオライターをしております伊達公之です。宜しく。」

「いや、お呼びたてして申し訳ない。」

「おい伊達、そんなに緊張しないで、もう少し楽にしろ。」

 この橘の言葉を受けて、伊達は正座していた足を胡坐に変えた。と同時に着慣れて居ないスーツの上着も脱ぎ捨てた。

「そうだ、今日はざっくばらんに話そうじゃないか。さあ一杯注がせてくれたまえ。」

(隅田はそう言いながら伊達にお酌した)

「はい。戴きます。」

(少し緊張気味に盃を差し出した伊達は、何を依頼されるのか密かに心配していた)

「おまえ、政治もの書けるか?」

(堪らず橘が言った)

「えっ、政治物?映画のシナリオか?」

「いや、連続テレビドラマでお願いしたいんだ。」

(隅田が一気に捲し立てた)

「連続テレビドラマですか?それで、何回の連続なのですか?」

「12回か24回でどうだろう?」

「3ヶ月か6ヵ月という事ですか?幅がありますね。」

「すまん、政治情勢いかんなのだ。」

「それで、他に何か制約とか条件はあるのですか?」

「女性総理大臣を主人公として、直面する政治問題に男性総理大臣以上に毅然として、勇猛果敢に取り組む姿を視聴者にアピールする内容で書き上げてほしいんだ。イメージで言うなら凛とした姿の日本で最初の女性総理大臣をイメージして書いて貰いたい。」

「随分と欲張った内容なのですね。うーん、そう急に言われてもイメージが湧かないなー。具体的タイプで言うなら誰をイメージすればいいんですか?三池裕子女史ですか?」

「三池裕子女史というより、室井良子さんといった方がいいかも知れない。」

(堪らず橘が言った)

「ほう、室井良子さんか。それは意外と面白いかもな。」

「引き受けてくれるのか?」

(隅田が言った)

「やってみます。但し、何かヒントになる資料を用意して頂けるとよりご希望に添えるものができると思います。」

「資料か?分かった、知り合いに当たってみるからよろしく頼む。」

「さあ、話は纏った。飲もう!」

 三人は、これ以後はシナリオの件を忘れて飲み耽った。それで居て、三人三様に主人公を誰にしたらいいのかと頭の中で妄想と想像を巡らせていた。読者の貴方なら、誰を主人公にしますか?貴方なりに想像を巡らしてみてください・・・・


to be continued...



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