小説「政権奪取!」 3







「君は、日本が置かれている経済状況の中で何が一番問題なのだと思うかね?」

「何か口頭試問を受けているような感じですが、私は日本のGDPがおよそ五百兆円といわれて居りながら、昨今のデフレによってGDPがおよそ四百七十兆円しかなく、このデフレギャップといわれている三十兆円を早急に手当てしないと日本の経済は好転しないのだと思って居ります。」

「うん、百点満点の答えだ!ますます気に入った。では、君ならその三十兆円のデフレギャップをどうやって解消しようとするかね?」

(ちぇ、だんだん調子にのって、難しい質問をしてくるじゃないか。しかも文屋にとって過去問の様な質問ならいざ知らず、想像力を働かさないと分からない問題は一番苦手な事知っているだろうに同業者なのだから・・・)

「すみません、ちょっと思い浮かびません。」

「まあいいだろう、私なら、この時期に新幹線運営会社が自らの資金手当てで東京から名古屋までを建設し、走らせるとしているリニアを国として後押しする意味で名古屋から大阪経由関西国際空港までの間を建設し、その為には相続税の優遇策として、購入している無利子国債を控除できるような措置で臨よ、但し品川始発は、撤回し東北新幹線、上越新幹線、長野新幹線、東海道新幹線が乗り入れている東京駅始発にする事を条件として付け加えるがね。」

「なるほど、リニア建設の後押しですか?それで幾らくらい掛かるんですか?」

「東京から名古屋間の建設見込み額がおよそ五兆八千億位といわれているから、名古屋から大阪
経由関西国際空港までは、たぶん八兆円から九兆円の間だと思う。」

「でも、何故名古屋から大阪経由関空までなのです?そもそもJRと航空会社はライバルじゃないですか?」

「君の了見は意外と狭いんだなー君、関空に降りたった旅行者達は何処へ行くと思う?」

「それは、一般的に考えれば関空に降りたつ訳ですから、大阪や京都など主に関西エリアを目指すものだと思います。」

「だからだよ、大阪、京都、名古屋、全てリニアの沿線上にあるじゃないか。」

「なるほど、リニアを使えば名古屋までも三十分位ですね。これは便利だ!」

「そもそも、JRと航空会社はライバルだの成田空港は国際線で、羽田空港は国内線等と利用者の利便性を無視して分けていること自体が時代遅れなのだ。私に言わせれば、成田へ降り立った旅行者達が成田で国内線に乗り換えて千歳に行けない事の方がおかしいと思っている。なんで態々リムジンバスだの列車に乗り換えて羽田空港まで行かなきゃならないのだと、初めて海外から来た旅行者なら感じると思う。だから、韓国のハブ空港に負けてしまうんだ。日本人はこの変な発想を捨てる時が来ているのだよ。羽田も成田も国際空港で在り、国内線空港でもいいじゃないか、需給バランスは、着陸料で差をつける事で調整すればいいんだ。」

「なるほど、仰って居られる事、誠に正論です。利用者からすれば、成田に降りて成田で国内線に乗り換えができれば便利ですね、逆に羽田に国内線で来てそのまま海外へ飛び立てれば便利ですね。なんでそんな事今まで思いつかなかったのですか?」

「それが官僚的発想の悪習なんじゃないか、」

「なんだ、この国の閉塞感は、発想の転換で幾つか解決できるのですね。」

「そうだとも、この国にはまだまだ潜在力があるんだ、それを引き出せる政権を創らないと本当にダメになってしまうんだ。」

「なんだか大先輩のお話をお聞きしていたら気持ちが明るくなってきたような気がします。政治家の取材でもこんな突っ込んだ政策の話は聞けません。まして最近の総理の話は、抽象的で具体性に乏しく、どうやって国民有権者を失望させないか、記者の我々が苦労させられています。その為、各社ともスキャンダルや誹謗中傷合戦みたいな記事ばかりになってしまい、今お聞きしたようなスケールの大きい、夢のある政策を久しぶりに聞きました。しかもそれが政治家ではなく、同業者の大先輩からお聞きするとは意外でした。」

「だから、最初に言っただろう。当たり前の事だが、政治家にとって、政治理念、政治信条、政策が必須条件だと、今の政治家どもがこの当たり前の事さえ満たしていないという事だ!だから、現代令終会として何としても政権を奪取すると決めたんだ。」

「俄然やる気がわいてきました、その政権奪取に関わらせて頂けて光栄です。」

(渡部は、腕時計と置時計の両方で時間を確認すると、隅田に告げた)

「君、そろそろ君が楽しみにしている大勲位に会いに行く時間だ、向島までだとこの時間どれ位掛かるかな?」

「今の時間だと、三十分程かと・・・・」

(渡部は、インターホンで正面玄関に車を回すよう指示し、隅田を伴って名誉会長室を後にした。)

二人を乗せた車は日が暮れかかり、ネオンサインが瞬き始めた都心を一路、大勲位曽根の待つ向島料亭「華蝶」に向かっていた、それまでの喋り疲れか、二人は車内では無言で互いに車窓をただぼんやりと見つめていた。隅田は大勲位以外に誰が居るのだろうと自分なりの想像を働かせていた。渡部は、隅田の反応が思いの外であった事で気を良くし、極秘プロジェクトの成功を密かに確信し始めていた。

(大勲位の他に居るとすれば、誰か一人くらい現職国会議員が居てもおかしくないよな。だとすると、大勲位の元秘書だった佐野肇か?それとも党首の平岩?いや、以外と「所属政党は問題ではない、」と言っていたから、向原か原田辺りかも知れないな?まあ、それももう少しでハッキリする訳だ。)

(渡部は思っていた、こうとなったら何が何でもあの室井良子を口説き落として、このプロジェクトを成功させないと、俺は死んでも死にきれない、しかしあの女傑一筋縄ではいかなそうだしなー誰に口説かせるのが一番適任なんだ?)

その時二人を乗せた、車が「華蝶」の玄関の車寄せに滑り込んだ。

「お疲れ様でした、到着いたしました。」運転手が言ったと同時に、ドアが開けられて、

「お待ち申しあげて居りました、本日はようこそ華蝶へお越しくださいまして、おおきにー」

(別に京都出身者でもないのに、京都弁をおりまぜた挨拶で女将の金田澄が挨拶した)

「ああ、今日も世話になるぞ、大勲位は来ているか?」

「はい、先程より首を長くしてお待ちでいらっしゃいます。」

「平岩も着て居るか?」

「はい、つい先ほどお越しになられました。」

「そうか、そうか、わかった。」

「君、お待ちかねだそうだから行くぞ、覚悟の程はいいな、」

「はい、」


(流石に、隅田は少し緊張してきた。六十年余りの人生で、今日ほど密度の濃い一日は経験した事がなかったからだ。)





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